遠藤高帆博士のSTAP細胞解析論文

他の染色体異常の可能性を考えると、STAP細胞にはトリソミー8があるとは必ずしも言えないと思いました。

遠藤高帆博士のSTAP細胞トリソミー解析論文 科学的妥当性と確度はどれくらい?

直近の簡潔な結論はこちら)画像の不適切な処理で取り下げとなったSTAP細胞論文は、実験は架空だったのではという疑義が2014年3月25日から報道を賑わし苛烈なバッシングを伴う社会現象を起こしたのですが、一連の報道の根拠となった 1月29日STAP細胞論文発表後の2014年2月23日にオンライン上で公開された各細胞のmRNAデータ(採取日、細胞制作者・採取者・解析者未記載)の遠藤高帆博士による解析結果の解析手順を垣間見れる論文が2014年9月21日日本分子生物学会機関誌にて出版されましたが、mRNA解析の新手法についての論文のためSTAP幹細胞データの解析と解釈の妥当性までは査読がされていないためSTAP細胞論文については判断ができませんでした。しかし社会に対しては引き続きマスメディアを通じてこのサンプルのSTAP細胞はトリソミー8があり、体細胞から採取不可能、つまりトリソミー8が約20~30%見られるES細胞であるというアナウンスメントとなりました。専門家社会は賛否非常に少なく、ほぼ沈黙となりました。理研や各委員会はこトリソミー8論文について何も判断していないようです。)
STAP細胞はトリソミー8ではなく片親性ダイソミーかも

STAP細胞問題と科学的手法

STAP細胞問題は推定無罪の原則と冤罪回避を胸に各仮説の確率の増減を考えているだけなのですが、バッシングの際は少数派の意見を重視するという当初からの姿勢のためか「書く=筆頭著者擁護」と見られてしまいます。 誰が悪い・悪くない、架空実験・実施した実験と結論付けるのは一番最後で良いように思います。

科学のお話で「存在する・存在しない」のどちらかを"信じる"のも変です。井戸端会議な日常会話で定性的にどう感じるかのお話で「在ると思う・無いと思う」とお話するのは市民の自由です。在ると述べる一般人と彼らを非常に攻撃的に批判する科学者は、「存在する」「存在しない」と"信じている"ので、表と裏です。

故笹井博士の予想通り解析は難しく、結局再現の可否で各仮説の確度はかなり明確になると思われます。
相澤博士が8/27の会見で述べられておられた様に、ES細胞の黎明期やクローン作成時の細胞周期G0期の謎のように、再現困難=論文そのものが捏造となり得ないのが生物学の難しい点のようです。

理研CDBから山梨大学若山博士の研究室へ移動したSTAP細胞関連資料

木星通信さんがご入手された資料によると若山博士は全DNA解析ができるサンプルを理研CDBから山梨大学へ移管されているようなので、理研の予算で解析されたら良いのにと思います。
(上の表は日付け間違いがあります。下の表をご覧ください。)

理研CDBから山梨大学へ移動したSTAP細胞関連試料

理化学研究所から山梨大若山博士へ移管した試料(木星通信様取り寄せ資料より)
名前 樹立年月日 遺伝子 使用したSTAP細胞数 樹立数 系名  
STAP幹細胞 2012/1/31 129B6F1-GFP 2STAP/Well×2 1 FLS-1 FLS:F1 リンパ球スフィア
  2012/2/2 129B6F1-GFP 2STAP/Well×10 7 FLS-2~8 FLS-9は自由化
前に分けられた
  2012/2/22 129B6F1-GFP 1STAP/Well×3 2 FLS-T1とT2 FLS-T1:FLS-Teru1
  2012/1/31 129B6F1-GFP キメラ胎仔×7 2 FLB-1~8 FLB:F1 リンパ球 胚盤胞
  2012/2/3 129B6F1-GFP キメラ胎仔×3 2    
  2012/2/2 129B6F1-GFP 4倍体キメラ×8 4    
  2012/1/31 GOF(B6) 2STAP/Well×13 13 GLS-1~13 GLS:GOF リンパ球スフィア
  2011/11/25 GOF(B6) キメラ胎仔×10 8 GL-1~8 GL:GOF リンパ球
  2013/8/13 129/Sv-GFP 1STAP/Well×2 2 AC129-1と2 AC:アニマル カルス
TS細胞 2012/5/25 129B6F1-GFP 1STAP/Well×4 3 Callus-TS-1 唯一1系所持
コントロールES細胞 2012/5/25 129B6F1-GFP   6 129B6F1GFP-1  
コントロールTS細胞 2012/5/25 129B6F1-GFP   2 129B6F1 TS-1  

遠藤高帆博士の解析への疑問点

理研における遠藤高帆博士の10月1日の会見のご様子では、解析したSTAP細胞にトリソミーが見られたと断定しておいでのご様子ですが、疑問点が数件あります。

  1. 専門家の説明からも、そもそもRNAやSNPで染色体のRATIOをみれないのではないだろうか。
  2. mRNAデータのオンライン公開は論文発表から20日以上遅れた2014年2月23日。遅延の原因が未発表なため、データの信頼性には当初から疑義がある。
  3. データのチェックサムを疑義をもたれた論文の実験が実施された研究室の責任者、不正疑惑当事者の立場の研究者が行っているので中立性が無い。
  4. 6月11日の日経サイエンス号外で掲載されていた様に、一連の遺伝子関係の報道で最も影響力があったのは「トリソミー8を持つ個体は出生不可能なため体細胞採取は不可能=STAP細胞の正体はES細胞」説です。しかしSTAP細胞(CD45+の酸浴細胞)mRNAオンラインデータの細胞作成者、サンプル採取日、採取者、解析者、解析場所が未記載で、かつ、一時的に多能性マーカーを発現し直ぐに死んでしまう保存不可能(2014/8/27丹羽博士会見・日経サイエンス6月号若山博士)なSTAP細胞のmRNAデータは2011年~12年のキメラマウスやテラトーマを作製した実験のものとは別に作り直し(制作者は不明)である可能性が高く(※2014-12-26調査委会見で2012年当時採取サンプルである点を確認)、mRNA解析の結果で「キメラマウスは作られなかったはず」と言えない可能性がある。もし実験時に一度発現した後に死んだ体細胞を冷凍しただけならば、多能性マーカーは見えないかもしれないし、保存時の状況次第ではなにがしかの変異がある可能性もある。
    若山博士によるとSTAP論文がNatureに提出されてから4回ほどリバイス要求が届き、その際に解析データを得たという。(2014-10-13書き換え)


    若山教授「そうです。ネイチャーが認めれば誰も否定できません。ところが、そのネイチャーの審査がすんなり通らない。提出する度にここはどうだ? あれはどうだ? と全部で4回かな? 突き返されたんです」
    若山教授「いや、それがわたしも小保方さんもこれにはさほど揺さぶられませんでした。だって、実際に実験で確実に証明できているわけですから。後は審査員の方達の注文に一つひとつ応える。時にはキッチリ反論する。この作業を1年ぐらいやりましたかねえ。 普通はネイチャーできつくダメ出しされるとあきらめて、もっと論文の通りやすい学会誌に提出して、そこで通ればそれで満足、という人もいるんです。考え方は人様々です。でも我々にとっては、これまでの実験検証の過程に比べればこの審査に答えるのは何でもない。
    疑問→答え。これを繰り返すうち、ありがたいことに論文の質も量もグッと高まってきました。結果的には異例のネイチャーに論文2本同時掲載という、研究者冥利に尽きることとなり、注目度も増したというわけです」
    “「その時マウスは緑色に光った!」若山教授が語った幻のSTAP細胞誕生秘話”梶原しげる,2014/4/17日経Bizアカデミー
  5. 解析はオリジナル・プログラムを使用しているが、そのプログラムのフローは公表されておらずどういう解析がなされたのか確認できない。(なぜか掲載されたジャーナルからのリンクは無い?)
  6. 解釈の信頼性に不安を感じる。遠藤博士のブログに掲載された当初の解析はNatureにリジェクトされている。その理由は不明。専門家からは疑問点が上がっていた。
    故笹井博士が大変大きな衝撃を受けたという理研改革委の理研CDB解体提言の判断材料の1つにもなった若山博士が委託した第三者機関(放医研と言われている)、東大、東工大による、CDB若山研究室で所有していなかったはずのマウスの遺伝子が解析結果から得られたという解析結果は、2014年7月22日間違っていたと発表された。非常に大きな衝撃を感じた。
  7. mRNAが示している(STAP細胞のあるべき)遺伝子発現(DNAではない)とは何かが解らないので、ES細胞やTS細胞に似た遺伝子発現があるというだけではそれはTSそれはES等や、「異常」とまで言えるのかどうかが解らない。ES細胞とTS細胞は誘導によって可逆的にお互いになる。
  8. mRNAデータから純粋なトリソミーの診断は可能か不可能か。
    1. 父親由来と母親由来の遺伝子発現の比較は体細胞と比較しているのに、各染色体ごとの遺伝子過剰発現は30~40%に染色体変異が見られるES細胞と比較しているため、ES細胞とSTAP細胞どちらに異常があるのかが解らない。

      また、8番染色体と同時に遺伝子発現量に異常が見られたと遠藤博士が主張されたES細胞の8番染色体異常と同時にみられることがある13番染色体の異常について、日本の実験現場で使用されているES細胞の染色体異常についての論文では取り上げられていない(11番染色体とY染色体の異常の多発は記載されている)。
    2. 純粋な3本トリソミーでの染色体第8番遺伝子の過剰発現と言えるのかどうか。
      他の論文複数での純粋な3本トリソミーでの遺伝子過剰発現の目安は、遺伝子量効果から約1.5倍。ES細胞と酸浴したCD45+体細胞(STAP細胞)を比較した遠藤博士の解析では1.3倍なので、過剰発現とまで言えないかもしれない。
      "Since evidence suggests many Chr21 genes are not increased the theoretical 1.5 fold in trisomy21,22, we also directly compared trisomic to disomic cells. "
      Translating Dosage Compensation to Trisomy 21”Jun Jiang他 (2013)
    3. SMARTerで処理された129B6マウスのSTAP細胞第8番染色体の遺伝子発現の比率が、酸浴していない体細胞のそれと比較してB6系統マウスと129系統マウスで1:2だったので、129系統の染色体が1本増えたと解釈されていますが、ゲノムインプリンティングがある哺乳類ではアリル特異的発現があるはずで、一時期どちらかの系統の染色体の遺伝子の発現が増加してもそれだけでは異常とまでは言えないとも思われる。もしあったとしても、1:2の比率になるのは「できすぎ」なように思う。ゲノムインプリンティングとアリル特異的発現について、遠藤博士と同じようなmRNAのSNP解析をしている論文の試薬メーカーの解説書19ページ以降参照。
  9. エボラは腹痛と熱が症状ですが、腹痛と熱が診られるとエボラと診断されるわけではない。
    仮に染色体第8番過剰発現と仮定した場合、それだけで純粋なトリソミーと言えるか解らない。
    他の種類の染色体異常(不均一転座、部分転座、ロバートソン転座等)や、初期化に伴い下記論文に観られるような8番染色体の中で遺伝子発現をより効果的に発揮する遺伝子群の発現の活性の可能性Classification of Human Chromosome 21 Gene-Expression Variations in Down Syndrome: Impact on Disease Phenotypes等を棄却した理由(純粋なトリソミーと診断した理由)が記載されていない。
    STAP細胞はトリソミー8ではなく片親性ダイソミーかも
    STAP細胞と染色体異常とトリソミー
  10. 不均一なトリソミーが第8番染色体に在っても、マウスは出生している。 Overdosage of Hand2 causes limb and heart defects in the human chromosomal disorder partial trisomy distal 4q
  11. 仮に純粋なトリソミーと診断可能な場合、それはES細胞と言えるのだろうか。
    1. 染色体異常が発生した細胞が淘汰された可能性がある。細胞分裂は酸浴前にも体内でも繰り返されているので、部分的に染色体異常が発生してもおかしいとは言えない。
    2. STAP細胞論文ではSTAP細胞の定量的な分裂回数は記載されておらず、死滅した細胞を含めて全体の総数の減少が記されているので、ごくわずかな分裂で生じたトリソミー細胞が淘汰された可能性がある。

STAP細胞ではない可能性は?

STAP現象ではない場合の可能性を考えてみました。キメラマウスを製造した129系マウスは、テラトーマを形成してしまったり変異性がどうもあるようです。(テラトーマ組織はガン細胞と同じく胚盤胞へ入れるとキメラマウスを形成します。)

  1. 良く言われているのが、小さなES細胞やiPS細胞を渡した説です。しかし、細胞塊を形成しない上に大きさ的に超ベテランな若山博士なら目視で変だと思われると思いますが、実験されている方はどうお考えでしょうか。
  2. mGS細胞またはEG細胞を渡した。
  3. 129系マウスでMUSE細胞や天然の幹細胞を拾った。(一連の検証では、STAP細胞がなくても同じく酸に強いMUSE細胞が観測されるはずです。)
  4. 129系マウスで脾臓または脾臓近辺にできたテラトーマの細胞またはガン細胞を拾った(EC細胞)。
  5. 129系マウスで悪性リンパ腫や白血病等の病変を持った細胞を拾った。
  6. 129系マウスで血液が循環する脾臓に、精巣にたどり着く前に迷い込んだ始原生殖細胞があり、それを拾ってしまった。
  7. 若山博士が作業してから、普通のナマ試料と入れ替えた。

多能性・全能性を持つ幹細胞はガン細胞と似た性質があるようです。人工的な培養条件で、エピジェネ的影響を受けうることも知られてきています。 "Temporal analysis of genome alterations induced by single-cell passaging in human embryonic stem cells" | "生殖補助医療由来の先天性ゲノムインプリンティング異常症" | "iPS細胞等をもとに製造される細胞組織加工製品の造腫瘍性リスク" "iPS細胞における造腫瘍性リスク評価に関して."

以上、色々と考えてみましたが、せっかく論文が発表となったのに専門家社会が静かになったので、一体この大騒ぎはなんだったのだろうというやるせない思いでいっぱいです。

ヨブ記